1998 11/7(土)-30(月)
その写真家が50年近い歳月の間に押したシャッターがどれほどの回数になるのか見当することすら困難に思われます。天性の記録癖からと思われる熱心な仕事ぶりで「記録写真の鬼」などと云われた影山光洋(かげやまこうよう 1907-1981)は、彼が世に送った、二・二六事件や第二次大戦での山下・パーシバル会談、といった歴史的なスクープ写真によって写真家としての名を今に残しています。彼は戦前から戦時中にかけては、新聞社に所属してジャーナリズムの立場から、戦後はフリーの立場から社会の様々な局面にレンズを向け、事件の現場や庶民の暮らしを縦横無尽に撮影し、また、仕事として取り組む写真とは別な一方で、きわめてプライベートな視点から撮影した、自らの家族の記録を残しています。それは一見おしなべてクールな姿勢に貫かれた仕事の集積でありながら、「記録」という写真の最も重要な目的を果たすと同時に、形容しがたいヒューマニティに満ちた一巻の現代史となっています。この、或る写真家による目撃の記録は、「昭和」の名で語られてゆくであろうひとつの時代の有様を示す貴重な資料であるとともに、歴史という過去から今日へ、そして今後へと連なってゆく私たち自身の、共有すべき記憶でもあるのです。
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